愛の分割

 

新年あけましておめでとうございます。

 

今年もよろしくお願いします。

 

今回は昨年のクリスマスの時の出来事を書きます。

 

毎年のことですが、クリスマス予約があり、各店が販売目標の

 

達成に向けて競争していました。

 

店長は朝礼で「全員参加で、なんとしても目標を達成しましょう」

 

と意気込んでいました。

 

売れる人は簡単に何個もの予約を獲得しますが、

 

売れない人は自分で買ったりして売り上げに協力していたようです。

 

クリスマス予約期間の終了間際になって、僕と一緒に働く精肉部門の

 

パートさんの元気がなくなりました。

 

僕は心配になって、「どうしたの?」と尋ねました。

 

実はその時、彼女は予約をひとつも獲得していなかったのです。

 

彼女が出勤して事務所のタイムレコーダー社員証を通したとき、

 

事務所にいた店長に、「あなたはクリスマス予約の獲得が

 

0ですが、何とかなりませんか?」と話しかけられたそうです。

 

彼女は「努力しているのですが全く売れません。他の人は

 

どうなんですか?」と聞き返しました。

 

店長は「あなた以外の人は全員獲得しました」と厳しい表情で、

 

売れないなら自分で買えとは言いませんが、

 

「子供さんにケーキを買わないのですか?」と遠回しに言いました。

 

実は、彼女は前の年の春にご主人を亡くし、一人娘を育てるために

 

パートで働いていて、自分でケーキを買う余裕はありませんでした。

 

娘さんは美幸ちゃんという名前で、小学校一年生の寂しがり屋の

 

小柄な女の子でした。

 

ご主人が亡くなる前は、毎年クリスマスにはパパが美幸ちゃんの大好きな

 

いちごのケーキを買ってきて、3人で楽しく食べたそうです。

 

美幸ちゃんはやさしい子で、「パパは毎日お仕事で頑張っているんだから、

 

ケーキは半分たべてね」と言って、残りの半分をママとふたりで

 

食べていたようです。

 

パパが大好きだった美幸ちゃんは、パパのいない前の年のクリスマスは

 

寂しかったようで、空を眺めながら、「パパは今どうしているの?

 

一緒にケーキを食べたかったのに」と涙を流しました。

 

美幸ちゃんは神様にお願いしました。

 

「今度のクリスマスはパパと一緒にいちごのケーキが食べられますように」と。

 

それを聞いた彼女は悲しくなって号泣したそうです。

 

彼女は本当は美幸ちゃんにいちごのケーキを買ってあげたかったのですが、

 

一番小さくて安いものでも2000円でした。

 

買いたくても買えない惨めさに落ち込んでいた彼女に、

 

店長のその一言は彼女の胸にぐさりと突き刺さりました。

 

店長のような高給取りに、自分のような底辺の人間の気持ちは

 

分からないと思い、涙が出そうになり、事務所を飛び出したそうです。

 

僕はそれを聞いて悲しくなりました。

 

僕は彼女に、「いくらだったらケーキが買えるの?」と尋ねました。

 

すると彼女は「1000円くらいだったら買える」と答えました。

 

「だったら1000円出しなさい、僕が残りを出すから、あなたの名前で

 

いちごのケーキを注文して半分こしましょう」と提案しました。

 

彼女は僕の提案に賛成して、いちごのケーキを予約しました。

 

クリスマスの日がやって来ました。

 

仕事が終わって、彼女は売場で買ったケーキを持って僕のところに来て、

 

半分に切ってほしいと言いました。

 

小さなケーキです。しかも半分に切ると見栄えが悪くなります。

 

これでは美幸ちゃんは喜ばないと思いました。

 

その瞬間、自然と僕の心の中から言葉が出てきました。

 

「半分に切るとパパの分がなくなるじゃない。せっかく買っても、

 

美幸ちゃんは寂しいでしょう。僕が半分はプレゼントするから、3人で

 

仲良く食べて下さい」と彼女に言いました。

 

彼女は嬉しかったのでしょう。

 

僕に何度もお礼を言って、丸ごとケーキを持って帰りました。

 

あとから聞いた話では、家に帰った彼女は笑顔で写ったご主人の

 

写真をテーブルの上に置き、以前のようにケーキの半分をパパに、

 

残り半分を美幸ちゃんとママに分割して食べたそうです。

 

家族そろって幸せなクリスマスが過ごせたようです。

 

美幸ちゃんのお願いが叶って、僕はとても嬉しく思いました。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます