娘への愛

 

おはようございます。

 

僕には小さい女の子がひとりいます。

 

仕事が終わって家に帰り、奥さんと娘と一緒に夕飯を食べる時が、

 

僕にとって心地よいひとときです。

 

忙しい一日の中で嫌なことを忘れ、心が寛ぐのです。

 

思い出すと、奥さんと結婚したばかりの頃、ふたりで

 

夕食を食べていた時、突然奥さんが「赤ちゃんができたみたい」

 

と言うんです。

 

それを聞いて、今までこの世に存在しなかった新しい生命が

 

誕生することについて、僕は不思議な感情を抱きました。

 

やがて奥さんのお腹が大きくなるにつれて、その実感が

 

湧いてきました。

 

ふたりで外出した時、階段などでは手をつないで彼女の

 

身を守ってあげるような優しい気持ちになりました。

 

出産の日、生まれてくる子供を見るために病院の待合室で

 

数時間過ごしました。

 

やがて看護師さんに呼ばれて、初めて娘の姿を見た瞬間、

 

驚きました。

 

僕が想像していた赤ちゃんとは違って、あまりにも小さくて、

 

手足の肌はしわしわでした。

 

それから成長し、目に入れても痛くないほど可愛くなりました。

 

花嫁の父親が結婚式の前日に「今まで長い間お世話になりました」

 

と娘に挨拶されて、涙が出る気持ちが分かるような気がします。

 

ちょうどその頃、異動で僕が別のお店に転勤した時のことです。

 

新しい環境に慣れるまでバタバタしましたが、1週間ほど過ぎた時、

 

バックヤードの通路でひとりのパートさんに声をかけられました。

 

「もう慣れましたか?これからよろしくお願いします」と笑顔で

 

挨拶してくれました。

 

随分気さくな人だなと思いました。

 

それから一か月くらい経って慣れた頃、青果部門の作業場に

 

入ることがありました。

 

僕に声をかけたパートさんはそこで働いていました。

 

彼女の様子を見ると少し変でした。

 

なんだか作業がぎごちないんです。

 

その瞬間、彼女の左手に指がないのに気付きました。

 

彼女はそれに対してはすごく敏感でした。

 

「ああ、この指?事故で切断したのよ」とあっけらかんとして言いました。

 

彼女の話では、彼女が20歳の頃、勤めていた食品工場で誤って指を

 

機械に挟まれたそうです。

 

その時の「痛い!!」という彼女の悲痛な叫びは工場全体に

 

響き渡ったようです。

 

すぐに病院に運ばれましたが、左手の親指と人差し指の骨が

 

粉々になってしまい、元には戻らなかったそうです。

 

彼女の両親は嫁入り前の娘の残酷な運命にひどく悲しんだそうです。

 

一生元に戻らない手を見て、彼女自身もとても辛い思いをしたそうです。

 

彼女は陰で泣きながらも、両親に心配をかけないように、ふたりの前では

 

気丈に振舞っていたそうです。

 

それを聞いて、もし僕の娘がそんなことになったら、辛くて

 

耐えられないと思いました。

 

しかし神様は彼女のことを見捨てませんでした。

 

彼女は「世の中には物好きな男性がいてね、私と結婚したいという

 

男性がいてね、私と結婚してくれたのよ」と冗談ぽく言いました。

 

子供さんもひとりいるそうです。

 

彼女が失った指よりも、得た幸せの方がはるかに大きいと感じました。

 

辛い試練を乗り越えた彼女に、僕は感動を覚えました。

 

それから僕は彼女に会う度に親しく会話をするようになりました。

 

一度失った人生を取り戻した彼女は、実に人情味があって、

 

誰にでもやさしいのです。

 

彼女は自分が苦しんだ分、人の心の痛みがわかるようで、

 

困った人には愛の手を差し伸べていました。

 

僕は彼女が大好きになり、彼女を尊敬するようになりました。

 

そんな彼女を見て、僕は娘を甘やかしすぎていたと感じました。

 

可愛い子には旅をさせよと言われますが、娘には人の心の痛みを

 

理解できる優しい人間に育てるのが僕の役割だと思うようになりました。

 

それが娘への愛であり、娘が本当の幸せを掴むための手助け

 

なのかもしれませんね。

 

 

娘よ、あなたは父さんに似て決して美人にはなれないけれど、

 

父さんは将来あなたを必ず心のべっぴんさんにしてあげるからね。

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます