長生きの秘訣

 

おはようございます。

 

今回は、僕が老人ホームで働いていた時のお話です。

 

介護の業務の基本には、食事・入浴・排泄の3つの介助があります。

 

特に心を込めて行ったのは、入浴介助でした。

 

家庭ではお風呂は夜に入ることが多いと思いますが、老人ホームでは

 

夜はシフトの関係で人員が少く、ほとんどの入浴は日中に行われます。

 

ある日、僕は入居したばかりの89歳の男性の入浴介助を担当しました。

 

お風呂では転倒や浴槽で溺れるなどの事故が発生する可能性が

 

あるため、特に慎重でした。

 

裸になった入居者さんの体を見て、異常が無いかを確認するのも仕事です。

 

背中を洗う時、そこには彼の人生の長さと重みを感じました。

 

足の指を開いてその間を洗ってあげると、とても気持ちよさそうでした。

 

そして、温かいお湯に浸かりながら見せる幸せそうな表情に、

 

僕は介護の仕事を選んで良かったと心から感じました。

 

入浴介助が終わってリビングに戻り、水分補給のために

 

冷たいお茶を用意しました。

 

彼は美味しそうに飲んで、僕に話しかけました。

 

「こうやってお風呂に入れるのはあなたたちのお陰です、ありがとう」

 

と感謝の言葉をかけてくれました。

 

彼は誠実であり、その人柄に好感を抱きました。

 

足腰が少し弱っていて介護が必要ですが、89歳の年齢でありながら

 

元気な様子には驚きました。

 

数日後、僕は彼に「いつまでも健康で生き生きと暮らす秘訣は

 

なんですか?」と尋ねると、彼はなんでも美味しく食べることと、

 

ここに入居する少し前は健康だったので毎日ウォーキングをし、

 

自然との触れ合いを楽しんでいたと教えてくれました。

 

でも、彼が若かった頃は医療技術も発達していなく、食べ物にも不自由で

 

ここまで生きられると思わなかったようです。

 

彼はひとりでは生きられないので、多くの人に助けてもらいながら

 

ここまで生きてきたそうです。

 

先のことを考える余裕もなく、その日一日を大切に生きることで幸せを

 

感じていたようです。

 

今振り返ると、あっという間の人生だったそうです。

 

彼は最近の若い人に対して心を痛めていました。

 

仕事や人間関係で悩み、それらのストレスで心が病んでいるし、

 

数十年先の老後のことまで心配し、今の生活に悩んでいる人が多い。

 

満ち足りた生活なのに幸せを感じないまま、苦しみながら長い人生を

 

生き抜くことを考えている。

 

そんな人生なら長く生きても何の意味もないと思ったそうです。

 

「でも、今の若い人でも幸せに長生きできることがある、なんだと思う?」

 

と僕に言った時、彼の息子さん夫婦とお孫さんの3人が彼に面会に来ました。

 

その日は彼の90歳の誕生日ということで、ケーキを持ってお祝いに

 

来たようです。

 

それを知ったスタッフは全員で彼の誕生日を祝福しました。

 

僕はみなさんに心を込めてコーヒーを作って差し上げました。

 

彼は家族に囲まれながら楽しいひと時を過ごしました。

 

大切にされた彼はとても嬉しそうでした。

 

僕はそれを見て、彼の言いたいことが分かりました。

 

家族が帰った後、僕は彼に「先ほど言いかけたのは愛を持つことですね」

 

と言うと、彼はにっこり笑って頷きました。

 

そのときの彼の表情には幸せが満ちていました。

 

食べ物や運動も大切ですが、人が幸せに長生きするためには、

 

人を愛し愛されることが大切だと分かりました。

 

僕は彼に、生きることの意味を教えてもらった瞬間でした。

 

長く生きるのが人生の目的ではなく、いかに生きるのかが重要なんですね。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。