髪は女の命

 

おはようございます。

 

僕の親戚には、心の病気が原因で引きこもりになった女性がいました。

 

彼女は学生時代の人間関係がうまくいかなくなり、学校を卒業した後も

 

就職をしないで、家に引きこもっていました。

 

彼女は外の世界との繋がりを断つことで自分を守ろうとしていました。

 

引きこもりと言っても、家の外に出ないだけで、普段は普通に家族と

 

一緒に食事をしていたようです。

 

彼女の両親はとても心配し、彼女がなんとか社会に出て働くようにと、

 

いつも厳しい言葉をかけていたようです。

 

両親は、彼女が働くのが嫌で怠けていると思ったのかもしれません。

 

しかし、彼女はみんなと同じように働きたいのに、それができない自分を

 

情けなく思っていたようです。

 

ある時、彼女はテレビのお笑い番組を見て笑うことがありました。

 

それを聞いていた父親が、「仕事もしないでテレビを見て笑うなんて、

 

何を考えているんだ」と彼女を怒ったそうです。

 

彼女にとってはテレビのお笑い番組を見て笑うことが唯一の

 

気晴らしの時間でした。

 

しかし、それが許されない彼女は自分の部屋に戻り、泣き続けたようです。

 

彼女は学生時代から髪がとてもきれいで、それが彼女の魅力でした。

 

彼女は髪を大切にし、定期的なお手入れを欠かさなかったようです。

 

しかし、引きこもりになってからは髪を切ることをやめました。

 

その結果、髪の毛は伸びて腰のあたりまで届くようになりました。

 

鏡に映る長い髪を見て、彼女は癒されることができ、それだけが

 

彼女の心の支えとなっていたようです。

 

そんな彼女は、子供の頃から親戚付き合いが長く、僕を頼りになる

 

お兄ちゃんのように慕っていました。

 

彼女には他に相談できる相手がいないようで、彼女は自分の悩みを

 

僕に打ち明けました。

 

悩みを聞いて、彼女がとても苦しんでいることがよくわかりました。

 

何とか力になってあげようと思いましたが、その時、僕はどうして

 

いいのかわかりませんでした。

 

当時、僕は老人ホームで働いていて、そこには気が合って

 

よくお話をしている優しい女性の入居者さんがいました。

 

僕はその入居者さんに引きこもりで苦しんでいる彼女のことを

 

話してみました。

 

彼女がとても髪を大切にしていることも話しました。

 

すると、その入居者さんは「髪は女の命、でも、長すぎるともつれて

 

しまうのよ。私が若い頃、心の悩みで苦しんでいた時、その長い髪を

 

思い切って短くしたら心のもつれがとけてすっきりしたの」

 

と教えてくれました。

 

長い髪を切ることで新たな気持ちが生まれたようでした。

 

僕はそのことを彼女に伝えて、その長い髪をバッサリと切り落して

 

みてはどうかと提案しました。

 

しかし、彼女は「それだけは死んでも嫌」と言って受け入れませんでした。

 

僕が彼女のことを親身になって心配していたのに、彼女の言葉に

 

怒りを感じました。

 

僕は彼女に、「その髪を切るだけの勇気がなければ、今の悩みは解決

 

できないよ」と強い口調で言いました。

 

少し間をおいて、説得するようにゆっくりと「死ぬほど悩んでいるのなら、

 

死んだつもりで髪を切ったらどう?」と続けました。

 

彼女はうつむいて涙を流しているのがわかりました。

 

彼女は、僕の気持ちを理解したのか、しばらくして、断腸の思いで

 

髪を切りました。

 

髪は女の命です。

 

彼女にはもう失うものは何もありませんでした。

 

それから、彼女の気持ちは大きく変化したようです。

 

彼女は笑顔が戻り、その表情は生き生きとして輝きました。

 

おしゃれも楽しめる気持ちになりました。

 

僕は少し言い過ぎたかと反省しましたが、反面、彼女の勇気に拍手を

 

送りたいとも思いました。

 

彼女は積極的になり、少しずつですが外に出て働くようになりました。

 

保険の外交員となった彼女に、僕はお祝いに最初の契約者となってあげました。

 

その時の彼女の嬉しそうな顔は忘れられません。

 

彼女にとって長い髪は、自分を縛りつけていたのかもしれませんね。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。