強い人

 

おはようございます。

 

若い頃の僕はとても弱い人間でした。(今でもそうですが)

 

社会人になったとき、自分の力でこの世の中を変えてやろう

 

というような気持ちは微塵もなく、その責任の重さに、

 

ずっと子供のままでいたいと思っていました。

 

でも、なったものは仕方がありません。

 

強く生きていかなければなりませんでした。

 

僕は強い人に憧れていました。

 

その頃、僕が働いていた老人ホームでは、一つのフロアが2つのグループに

 

別れて入居者さんのお世話をしていました。

 

日中は別の場所でそれぞれ数人が働き、夜になると夜勤が

 

一人で両方の入居者さんを見守るシフトでした。

 

なので、仕事場所が分かれていても、事務室は共用で、2つのグループの

 

交流がありました。

 

僕は女性リーダーのもとで働き、もう一つのグループのリーダーは男性でした。

 

僕は男性リーダーの指導力や的確な指示、優れた判断力に魅力を感じました。

 

彼はスタッフに、「今日の午後2時からはAさん、Bさん、Cさんが入浴です。

 

その間にお部屋のシーツ交換をお願いします。それが終わったら、

 

入居者さんの衣服の洗濯をして、夕食までにはフロアの掃除をお願いします」

 

とテキパキ指示していました。

 

そんな彼の仕事ぶりを見ながら、将来、僕は彼のような強いリーダーシップを

 

持つ人になりたいと思いました。

 

一方、僕のリーダーは彼のようにスタッフを引っ張るのではなく、

 

事前にはっきりとした指示を出さないんです。

 

計画性がないというか、実に大まかな指示で、その場になってから

 

細かい指示を出すんです。

 

でも、その指示はとても厳しいのです。

 

だったら最初から明確な指示を出せばいいのに、といつも思っていました。

 

強い人間に憧れていた僕は、リーダーシップのない彼女を見て、

 

自分がリーダーになっても同じようにはなりたくないと思いました。

 

そんな理由で、僕はこんなリーダーの下で働くのは嫌で、

 

男性リーダーの下で働くスタッフを見習って仕事をするようになりました。

 

仕事の段取りを覚えた僕は、リーダーが指示をする前に自発的に

 

仕事を進めるようになりました。

 

すると無駄な仕事?がなくなり、仕事が効率的になりました。

 

ある日、リーダーは僕を事務室に呼びました。

 

彼女は「どうして私が指示する前に自分から仕事を進めるの?」

 

と僕を叱りました。

 

僕は彼女に「僕は強い人間になりたいんです。将来リーダーに

 

なったら、今のあなたのような優柔不断な仕事のやり方では、

 

僕は弱い人間のままです」と言い返しました。

 

リーダーが女性だったので言いやすかったのかもしれませんね。

 

そして、「隣の男性リーダーは強い人間で、仕事が合理的で

 

責任感がある」と続けました。

 

若気の至りですね。

 

すると、彼女は「本当の強さって知っているの?」と僕に問いかけました。

 

僕は勢いに任せて「この厳しい社会で生きていくためには、

 

強くならなければならないんです」とリーダーに答えました。

 

すると、彼女は「今のあなたを見ていると、私の若い頃を思い出します。

 

私も強い人間になろうと頑張った。でも、その結果、敵ばかり

 

作ってしまったの」と懐かしそうに言いました。

 

そして続けて、「多くの人を敵に回し、一人ぼっちになった私は考えました。

 

いくら強くなっても、それは何の意味もないことが分かったの。

 

そして、本当に強い人って、人の気持ちを理解することができる

 

人だと気づいたの」そう言って彼女は事務室を出ました。

 

彼女の仕事を見ていると、細かな計画よりも入居者さんのその日の

 

体調や心に気を配り、やさしく柔軟に対応しているのが分かりました。

 

男性リーダーは仕事の効率を優先し、彼女は入居者さんの生活を

 

優先していたのです。

 

僕は彼女の話を聞いて、本当に強い人間とは、苦しみを乗り越え

 

やさしさを身につけ、人の心の痛みを感じ取れる人だと思いました。

 

彼女がお世話をする入居者さんの幸せそうな顔を見ると、

 

彼女が言う本当の強さの意味が分かりました。

 

僕がなりたかった強い人、実は僕の一番近いところにいたのです。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

 

           しばらくお休みします。