お肉屋さんで働くこと

 

おはようございます。

 

今年の春に新入社員が僕のお店に入社しましたが、もう早くも

 

半年が経とうとしています。

 

入社直後、その中の一人の女性が僕が働く精肉部門に配属されました。

 

彼女はお肉を食べることはあっても、その仕事がどんなものか

 

全く知識がなく、学校を卒業したばかりの彼女は不安な

 

気持ちを抱えていました。

 

彼女は元々、入社前はきれいなお花や新鮮な果物や野菜を扱う青果部門を

 

希望していたようですが、実際には精肉部門に配属されました。

 

彼女は自分がお肉に関わる仕事をするようになるとは思っても

 

いなかったようです。

 

彼女が初めてこのお店で働くようになった時、冷蔵庫の中のお肉を見て

 

とても気持ち悪く感じたそうです。

 

それは、かつて生きていた動物が食材として使われることに、

 

残酷さと恐怖を感じたからだそうです。

 

彼女は冷蔵庫の中には屠殺された家畜の怨念が宿るように感じたそうです。

 

彼女の頭の中では、精肉部門での仕事は工場で製造されたお肉のパック商品を

 

お店に並べることだと思っていたようです。

 

まさか自分でお肉を切ったりスライスするとは予想外のことでした。

 

彼女は幼いころから母親に命の大切さを教えられて育ったため、

 

今の仕事に罪悪感を感じたそうです。

 

彼女は包丁でお肉を切るたびに心が痛みました。

 

彼女はこの仕事に誇りを持てなくなり、辞めたいと言ってきました。

 

僕は彼女にここを辞めてどんな仕事をしたいのか尋ねました。

 

すると、彼女は「介護の仕事なら人手不足でいくらでもあるので、

 

介護の仕事でもしようかと思っています」と小さな声で言いました。

 

彼女は冷たくなったお肉ではなく、温かい生身の人々の

 

お世話をしたいようでした。

 

僕はスーパーで働く前は老人ホームで介護の仕事をしていました。

 

僕は彼女に介護の仕事は思っているほど簡単な仕事ではないし、

 

介護の仕事でもしようかというような安易な気持ちでは絶対

 

続かないと厳しく助言しました。

 

介護の仕事は決して楽なものではありません。

 

入居者さんに喜んでもらうためには、それなりの覚悟が必要です。

 

僕は、老人ホームで自分の両親の介護をするような気持ちで

 

やさしく入居者さんのお世話をしていました。

 

言うのは簡単ですが、実は大変なことでした。

 

でも、僕の気持ちが伝わって入居者さんに喜んでもらった時が

 

一番うれしく思いました。

 

そのうち、最初の頃は元気な利用者さんもだんだん自分のことが自分で

 

できなくなり、最終的には永遠のお別れを迎えることになります。

 

人情味のある介護を大切にしていた僕は、多くの人との心の繋がりが

 

途切れるのが辛くて、介護の仕事を辞めました。

   

僕の今の仕事は、生きている人のお世話ではありませんが、

 

人のために食用として提供された動物の大切な命を幸せに変えることです。

 

食用の家畜は人に食べられるために生まれ、美味しく食べられることが

 

幸せといっても、それを育てた生産者さんや母親の悲しみは計り知れません。

 

僕は、愛情たっぷり注いで育てられたその愛を人々に伝えたいのです。

 

食卓に愛を届けることでお肉を食べる人が幸せになってくれるのを

 

願い、僕は今の仕事に誇りを持っています。

 

そして、お肉の仕事は無情で冷酷ではなく、愛情にあふれた温かい仕事

 

だと彼女に教えました。

 

彼女が母親に教えてもらった命を大切にするということは、

 

今の仕事で十分実現できると僕は彼女に伝えました。

 

お肉の仕事は愛を伝えることだと理解してくれた彼女は

 

今でも頑張って働いています。

 

今では、お客さんから「この前買ったお肉、美味しかったよ」と言われるのが

 

最高にうれしいそうです。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。