天国からの手紙

 

おはようございます。

 

老人ホームでの介護職に足を踏み入れたばかりの頃、僕は未熟な

 

新人スタッフとして、先輩たちの指導を受けながら仕事を覚えていました。

 

入居者さんの心と体に寄り添って介護を行うことが、この仕事の難しさだと

 

すぐ理解することができました。

 

心も体もいつも同じ状態ではないので、よく入居者さんを観察することが

 

必要でした。

 

それだけではありません。

 

介護の仕事には食事の世話から入浴、排せつなどたくさんあり、さらには

 

他のスタッフや看護師との協力やコミュニケーション能力も求められます。

 

最初は戸惑いと疲労感に包まれる日々でした。

 

そのうち一人で介護をすることになりましたが、失敗の連続でした。

 

入居者さんのご機嫌を損ね、自分のミスで先輩に迷惑をかけ、

 

入居者さんの家族からも叱責を受けました。

 

入居者さんの中には若い頃に学校の先生をしていたというとても

 

気難しい女性がいました。

 

彼女は掃除や整理整頓に非常に厳格でした。

 

彼女のお部屋に入るたび、緊張が走り、キチンとできなくて何度も叱られました。

 

本来なら清掃係が行うべき仕事も、彼女からは叱責を受け続けました。

 

そのうち気づきました。

 

彼女が厳しくするのは僕にだけで、他のスタッフには優しく接し、

 

いつも感謝の気持ちを伝えていたのです。

 

恐らく、僕の介護の仕方が彼女には不満だったのでしょう。

 

正直な気持ち、悔しくて、僕は彼女がここからいなくなればどんなに

 

幸せだろうと思いました。

 

でも、僕はいくら叱られても勉強だと思い、歯を食いしばって、

 

少しでもいい介護ができるように努力しました。

 

半年が経ち少しずつ仕事に慣れていく中で、彼女から再び叱責を受けました。

 

僕は仕事を効率的にこなすために時折手を抜いていましたが、

 

彼女はそれを見逃しませんでした。

 

彼女は学校の先生としての経験から、僕たちスタッフを生徒のように

 

見守っていたようです。

 

僕は彼女から見れば老人ホームのスタッフの中では劣等生

 

だったのかもしれませんね。

 

そして、ある日、彼女の体調が急速に悪化し、食事もあまり

 

摂りたがらなくなりました。

 

僕は彼女に嫌われているのが分かっていましたが、そんな彼女を

 

放っておけませんでした。

 

僕はできるだけの配慮をもって優しく彼女を介護しましたが

 

彼女は最終的にこの世を去りました。

 

彼女がいなくなって、僕の心は大きな穴があいたように感じました。

 

彼女が亡くなった直後、先輩から僕に手紙が渡されました。

 

それは亡くなる前に書かれた、彼女からの手紙でした。

 

僕は驚いて、すぐに封を開け読みました。

 

弱々しく書かれた手紙には、彼女からの言葉が綴られていました。

 

「○○さん、あなたがこの手紙を読んでいる時は、きっと私は

 

天国にいるでしょうね。

 

私はあなたがこの施設に入ってきた時、あなたが亡くなった私の

 

息子とそっくりなので驚きました。

 

私の息子は私が甘やかしたため、弱い人間になってしまい、人生の

 

試練に耐えきれず自ら命を絶ってしまいました。

 

今まであなたにつらく当たってごめんなさい。

 

あなたの将来のことを考えると、私はあなたに強い人間になって

 

欲しかったんです。

 

でもよく頑張って、最後は私の面倒をよく見てくれました。

 

とても嬉しかったです。

 

私は死んでもあなたがこれから強く生きてくれることを天国から

 

見守ります。  心の母からあなたへ」

 

僕はこの手紙を読んで涙が止まりませんでした。

 

彼女の想いは、僕の心に深く刻まれ、僕は彼女が望んだように

 

強く生きる決意をしました。

 

彼女のおかげで、僕は介護の仕事の大切さと愛と思いやりを理解できました。

 

彼女からの手紙は僕にとって人生の宝物になりました。

 

彼女は僕の心の中で永遠に生き続けるでしょう。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。