悲しい恩返し

 

おはようございます。

 

この前のお休みの日、買い物をしてクルマで家に帰る途中のことです。

 

信号待ちをしていると、一人のお年寄りの女性が僕のクルマの前の

 

横断歩道を渡ろうとしていました。

 

しかし、彼女はなぜか僕のクルマの前で立ち止まり、不安そうに周りを

 

見回していました。

 

信号が青に変わりましたが、彼女が立ち止まっているので

 

前に進むことができません。

 

後ろには他の車がいなかったので、しばらく待ってみることにしました。

 

すると突然、彼女は歩き出し、歩道に到着しました。

 

僕は彼女の様子がおかしいと思い、クルマを安全な場所に停めて、

 

彼女のところへ行って声をかけました。

 

僕は彼女に「危ないですよ、早く渡らないと歩行者信号は赤に

 

なっていたんですよ」と注意しました。

 

すると彼女はきょとんとしてまるで他人事のようでした。

 

僕は彼女に、その時何をしようとしていたのか気になって尋ねました。

 

彼女は「病気のお爺さんのお見舞いに行こうとしたら、病院が

 

どこだか分からなくなったの」と困ったように答えました。

 

そして「お爺さんが待っているの、今日はお爺さんが大好物の梨を

 

食べさせてあげようと持ってきたの」と袋に入った梨を見せました。

 

それは大きな梨で、二人で半分ずつ食べるそうです。

 

僕は彼女に病院の名前を聞きましたが、彼女は思い出せませんでした。

 

もしそれが分かれば、彼女をその病院まで案内するつもりでした。

 

僕はどうしようかと困りましたが、彼女の服の裾にバッジが

 

ついているのを見つけました。

 

そこには彼女の名前と電話番号が書いてありました。

 

僕はきっとこの人は認知症で外を徘徊していたのだと思いました。

 

僕はその電話番号に連絡しました。

 

幸い、家族の人がすぐに迎えに来きました。

 

「お婆ちゃん、どこへ行っていたのか心配していたのよ」

 

と娘さんらしい人が彼女を叱りました。

 

僕が事情を説明すると、「ごめんなさい、この人は頭がぼけてしまって

 

いつも人に迷惑をかけてしまうんです」と謝りました。

 

近くには彼女のご主人の入院している病院などはなく、

 

ご主人は2年前に亡くなったそうです。

 

僕はお婆さんにご主人がどんな人だったのか聞いてみました。

 

実は、彼女は数年前、コロナが流行する前のことでしたが、胸の病気で

 

長い間入院していたそうです。

 

彼女のご主人は彼女のことを心配して、一日も欠かさず病院に

 

お見舞いに来たそうです。

 

彼女はご主人の顔を毎日見ることで不安が消え、とても安心したそうです。

 

そんなご主人の気遣いに、彼女は嬉しくて涙が止まらなかったそうです。

 

そして、彼女はご主人のやさしい気持ちに支えられ、病気を克服し、

 

元気になれたのはご主人のおかげだと感謝したそうです。

 

その続きは彼女の娘さんが話してくれました。

 

その後、ご主人は癌で亡くなりましたが、その頃はコロナが

 

流行していたため、彼女はご主人のお見舞いに行きたくても

 

行けませんでした。

 

今度は自分がお見舞いに行くことがご主人への恩返しだと思って

 

いたのにそれができない彼女は悔やんだようです。

 

ご主人に会いたくても会えない彼女は、涙ながらにコロナを恨みました。

 

ご主人が亡くなってからは悲しみの中で彼女は認知症が進行し、

 

今では一人で外出させることはできなくなったそうです。

 

でも困ったことに、時々彼女は家族の隙を見て外を徘徊するそうです。

 

この二人の話を聞いて、僕は深く考えさせられました。

 

ご主人との思い出は彼女の頭の中ではなく、心の中に

 

深く刻まれているのでしょう。

 

なので、今でも彼女はご主人が病院で待っていると思い、

 

徘徊するのでしょうね。

 

彼女の心の中では今でもご主人は生き続けているようです。

 

僕は家に連れて行かれる彼女を見ながら、彼女が認知症になっても、

 

ご主人への愛を決して忘れることはないんだなと思いました。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。