スライサーは決して人を裏切らない

 

おはようございます。

 

僕はスーパーの精肉部門で、お客さんに喜んでいただけるように、

 

美味しいお肉を食卓に届ける仕事をしています。

 

僕はいつもミートスライサーを使ってお肉を薄く切っています。

 

そして、厚さを調節して、すき焼き用やしゃぶしゃぶ用などに加工します。

 

でも、この機械は非常に危険で、取り扱いには十分な注意が必要です。

 

誤った使い方をすると指を切ったり大怪我をすることがあります。

 

特に大変なのが、作業が終わった後のスライサーの掃除です。

 

スライサーを分解して、部品を洗浄して、再度組み立てます。

 

この作業は時間と手間がかかりますが、細心の注意を払うことで、

 

怪我を防ぎ安全に掃除ができます。

 

話は変わりますが、少し前にお肉の部門に新しい人が入りました。

 

その人は30代後半の主婦で、ご主人の転勤のためにそれまで勤めていた

 

事務の仕事を辞めて、こちらに来たそうです。

 

彼女の第一印象は、真面目でとても明るい感じでした。

 

実際に働いてもらうと、仕事の覚えが早く、丁寧で、仕事仲間とも

 

仲が良く、人間関係も良好でした。

 

最初は鶏肉の商品化の仕事をしてもらいましたが、早く戦力に

 

なってもらおうと思い、多くの仕事をしてもらいました。

 

僕は彼女に「今まで事務の仕事をしていたのに、畑違いのお肉の

 

仕事は慣れるのに大変でしょう?」と話しかけました。

 

すると彼女は「どんな仕事も楽ではありませんが、お肉の仕事は

 

事務の仕事のように神経をつかわなくて体を使うから、私には

 

合っているかも知れません」と笑顔で答えました。

 

僕は彼女のような誠実な人が入ってきてとても嬉しく思いました。

 

ところが、その数日後、店長から「彼女のご主人が重い病気にかかり

 

その長期看病のため、彼女は仕事を辞めざるを得なくなった」と連絡が

 

あったと伝えられました。

 

せっかくいい人が入ったのに残念でした。

 

でも、誠実な彼女に愛されるご主人は、幸せに違いないと僕は思いました。

 

それから数週間後のことです。

 

僕は奥さんの洋服の買い物について行き、洋服を選んでいる間、

 

お店の中で待っていました。

 

すると驚きました。ご主人の病気の看病で仕事ができないはずの

 

彼女が、洋服を几帳面に整理していたのです。

 

その姿はお肉の仕事をしていた時と同じように丁寧でした。

 

僕が悪いことをしたわけではないのに、なぜか彼女に気付かれないように、

 

その場から逃げ出したくなりました。

 

僕は慌てて奥さんに「外で待っているよ」と言って、お店の外に出ました。

 

それまでの彼女に対する印象が一変しました。

 

信頼していた彼女に裏切られたような気持ちになりました。

 

人間ってこんなに簡単に嘘をつけるものなのかと悲しくなりました。

 

それを思い出しながらスライサーを掃除する僕は、スライサーは

 

とても危険な機械ですが、丁寧に扱えば、決して人間のように

 

人を裏切ることはないと思いました。

 

スライサーの汚れは一目でわかりますが、人の心の汚れは奥深く、

 

見た目ではわかりません。

 

なので僕は、仕事中はひとりでスライサーの掃除をするときが

 

一番平和に感じます。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。