心のメッセージカード

 

おはようございます。

 

僕が老人ホームで働いていた時のお話です。

 

老人ホームで生活をしているお年寄りはそれぞれ心と体の状態が違い、

 

それに合わせてお世話をするのは大変なことです。

 

でも僕はできるだけみんなに喜んでもらえるように、同じ気持ちで

 

お年寄りを大切にするように心がけました。

 

同じような気持ちでお世話をしても、人によって受け取り方が違います。

 

中には僕の介護に不満を持つ人もいます。

 

そんな時は僕の勉強不足だと思い、その人の気持ちを聞いてできるだけ

 

快適に過ごしていただけるように努力します。

 

反対に、僕の介護の仕方が気に入って、とても嬉しく感じてくれる人がいました。

 

その人はこの老人ホームでは一番若い60代後半の女性でした。

 

3時のおやつの時間によく彼女とお話しをしましたが、とても楽しそうでした。

 

彼女は昔を懐かしんで僕に、彼女の人生について語ってくれました。

 

彼女のご主人は気分屋でわがままで、彼女はいつもそれに振り回され悲しく

 

なってひとりで泣いていたそうです。

 

そんな彼女は、人の気持ちを理解できないご主人と別れて、苦労しながら

 

子供さんを女手ひとつで育て上げたそうです。

 

なので僕に優しく介護をされることがとても嬉しいようでした。

 

ある時、それは母の日が近づく春の頃でした。

 

僕が彼女のお世話をしていた時、彼女が指輪を取り出し僕にあげようと

 

差し出しました。

 

僕がどうして指輪をくれるのかと聞くと、それは別れたご主人からもらった

 

婚約指輪だそうです。

 

彼女は別れたご主人との思い出は辛いことばかりだったので

 

彼女は今度生まれ変わったら僕と結婚したいと思い、その指輪を僕に

 

あげたいとの事でした。

 

僕はそのときまだ結婚はしていませんでしたが、今の奥さんと付き合って

 

いましたし、そんな高価な指輪は受け取れません。

 

でも、どうしても受け取ってくれと彼女が言うので、僕は少しの間

 

その指輪を預かることにしました。

 

しかし彼女は僕に指輪を預けたまま、母の日の直前に病気で亡くなってしまいました。

 

僕は亡くなった彼女にどんな気持ちを伝えたらいいのでしょう。

 

しばらくして僕は、彼女の子供さんに事情を話して指輪をお返ししました。

 

その日は母の日でした。

 

僕は指輪とともにカーネーションと心のメッセージカードを添えました。

 

メッセージカードには「僕はあなたのご主人にはなれませんが、あなたは

 

僕の心の中でいつまでも優しいお母さんとして生きています。

 

僕はあなたを心から愛する息子になりました」と僕の心を伝えました。

 

僕が彼女のご主人になれなくても、彼女はきっと喜んでくれると思います。

 

これが僕の彼女への母の日のプレゼントでした。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。