世界一甘いチョコレート

 

おはようございます。

 

先日は敬老の日でしたね。

 

この日、僕のお店でも多くのお客さんが訪れ、中にはお爺さんや

 

お婆さんたちが元気にショッピングを楽しんでいる姿を見かけました。

 

「お爺さん、今日は敬老の日よ、どんなご馳走が食べたい?」と家族に

 

聞かれ、幸せそうに笑顔を見せる方もいました。

 

僕はその生き生きとした表情を見て、素晴らしいことだと思いました。

 

その時、僕が老人ホームで働いていた時のことを思い出しました。

 

そこには生きることに喜びを見出し、積極的に生活している男性がいました。

 

彼は老人ホームに入る前はひとりで農業をしていたそうですが、

 

畑仕事をしている最中気を失い、倒れていたところを近所の人に

 

発見され、辛くも命を取り留めたそうです。

 

その後、彼は老人ホームでの生活を余儀なくされました。

 

それまで、彼は大自然と共に暑さ寒さの季節の変化や多くの困難を

 

乗り越えながらも充実した生活を送っていたそうです。

 

しかし、施設の暮らしは彼の自由を奪い、失意の底に突き落としました。

 

彼はこのままここで死ぬまで暮らすのかと思うと辛くて希望を

 

持てなくなりました。

 

彼は施設での手厚い介護よりも、厳しくても自然の中で季節の風を

 

肌で感じ、自由に暮らしたかったのです。

 

彼は何もかもが無気力で、スタッフがお部屋のカーテンを開けても気分が

 

晴れず、何を食べても食事が楽しく感じられなかったそうです。

 

そんな生活が3か月ほど続いたある日のことです。

 

彼はいつものようにリビングで、テレビの番組を観るのではなく、

 

ぼんやりとその画面の動きを眺めていました。

 

すると、近くにいる男性の入居者さんに、家族が面会に来ました。

 

その中にはひ孫さんでしょうか、幼い女の子がいました。

 

可愛いらしいその子は家から持ってきたチョコレートをお爺さんに

 

食べてもらおうと渡しました。

 

老人ホームの中にあって幼い子の振る舞いは新鮮に感じます。

 

お爺さんはもらったチョコレートを美味しそうに食べました。

 

彼が興味深くその様子を見ていたところ、その子が近づいてきて

 

「お爺ちゃんも食べて、美味しいよ」と言ってチョコレートの

 

一片を彼にあげました。

 

彼は初めて会ったその子がチョコレートをくれるとは思っても

 

いなかったようです。

 

彼は驚きと喜びの表情で「私にくれるの?ありがとう」と言い、

 

もらったチョコレートを食べました。

 

「美味しい?」と見つめるその子の瞳に、彼は愛情を感じました。

 

そのチョコレートは今まで食べたことがないような甘さでした。

 

彼にとっては世界一甘いチョコレートだったのです。

 

なぜなら、まるで家族の一員のように接してくれたその子の気持ちが

 

最高に嬉しかったからです。

 

その瞬間、彼の凍った心に衝撃が走り、熱いものが流れました。

 

若くて小さな生命力が彼の枯れきった命を蘇らせたようです。

 

彼は生きることの素晴らしさと感動を思い出し、それまでの暗い

 

気持ちに別れを告げました。

 

彼は前と違って、自分からカーテンを開けてほしいと願うようになり、

 

外に咲く桜の美しさに感動し、今まで義務感で食べていた食事も

 

温かくて美味しく感じるようになりました。

 

介護スタッフにも感謝の気持ちを表すようになり、それからの彼は

 

施設内で最も陽気で笑顔が絶えない存在となりました。

 

彼は数年後に亡くなりましたが、生きる喜びを十分感じ取って

 

その生涯を終えたことは感慨深いものでした。

 

老いても希望と感謝の気持ちを持ち続けることで輝くようですね。

 

お年寄りたちが元気で買い物を楽しんでいる姿を見て、この人たちも

 

彼のように輝かしい人生を送ってほしいと願うばかりでした。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。