あなたの代わりはいない

 

おはようございます。

 

スーパーで働いているときのお話です。

 

以前、精肉部門にとても責任感の強いパートさんが働いていました。

 

朝8時から午後3時までの勤務でしたが、いつも1時間程度は残業していました。

 

彼女はハム・ソーセージの担当で、発注には自信を持っていました。

 

彼女の発注は正確で、特売品の大量販売や盆正月の売上がピークの時でも、

 

ほとんど商品が品切れすることはありませんでした。

 

売場管理もよくできていて、ボリューム感があり陳列もきれいでした。

 

また季節や行事に合わせた売り場づくりは、鮮度感がありお客の目を引きました。

 

ひときわ目立つ彼女の売場は、その前を通るお客の購買意欲を掻き立てました。

 

そのため、彼女の担当部門の売り上げは好調でした。

 

いつも忙しそうにしている彼女に、僕が「何かお手伝いしましょうか」と聞いても、

 

「大丈夫、ここは私の担当、あなたは自分の仕事をしなさい」と冷たい返事でした。

 

彼女は自分の仕事を誰にも取られたくないようで、人に任せませんでした。

 

彼女は「私の代わりに仕事ができる人はいないのよ」と自慢していました。

 

彼女のご主人はリストラで正社員の職を失い、今は非正規雇用で働いているようです。

 

なので彼女は頑張って働かなければならないようでした。

 

そんな彼女ですが、不整脈のため心臓に違和感があり、病院に通っていたそうです。

 

ある時、仕事中の彼女は突然胸を押さえてうずくまりました。

 

僕はどうしたのかと聞くと、「心臓の真ん中あたりが締め付けられるようで

 

痛い」と言いました。

 

しばらく彼女はその場でじっとしていました。

 

しかし数分でその痛みは消えたようで、何事もなかったように、また仕事の

 

続きを始めました。

 

僕は彼女に、ご主人が心配するから早退して病院に行くように勧めました。

 

ところが彼女、「痛みが治まったから大丈夫」と言ってそのまま仕事を続けました。

 

そしていつものように仕事を完璧にこなして家に帰りました。

 

ところが翌日、彼女のご主人から会社に電話があり、昨夜、彼女が心臓に強い

 

痛みを訴えたそうです。

 

昼間とは違って痛みが長く続き、消えなかったそうです。

 

彼女はすぐに救急車で病院に運ばれ、懸命の治療を受けたようですが

 

その甲斐もなく、帰らぬ人となったそうです。

 

それを知って僕は、あの時、もっと強く彼女に病院に行くことを

 

勧めなかった事にとても悔いが残りました。

 

ご主人の悲しみを思うと僕の胸も痛くてたまりませんでした。

 

そのとき僕は、涙ながらに天国に行った彼女に向かってつぶやきました。

 

仕事の代わりはいても、あなたの代わりはいないのですよと。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。