人生の塩加減

 

おはようございます。

 

僕が介護の仕事をしていた時のことです。

 

老人ホームで生活する利用者さんにとって食事は楽しみのひとつです。

 

施設では季節感を感じてもらえるように、年中行事やイベントごとの

 

食事を大切にしています。

 

そして利用者さんの健康に配慮された安心安全な食事を提供しています。

 

この施設では利用者さんに喜んでもらえるように、特に、食事には力を

 

入れていました。

 

みなさん、美味しそうに食事をしているようでした。

 

でも、その中にひとり、あまり箸が進まない利用者さんがいました。

 

その人はいつも自分で食べることができる元気な人でしたが、

 

「ここの食事はあまり美味しくないんですか」と僕は心配しました。

 

その人はこの施設に入って3か月の70代の女性でした。

 

「毎日3度の食事を食べられるのはありがたいけど、何か味が物足りない」と

 

彼女はとても不満そうでした。

 

僕は彼女に、ここに入るまでどんな食事をしていたのか聞いてみました。

 

彼女はひとり暮らしだったようですが、毎日近所のスーパーに行き、

 

少しでも値段が安いものや鮮度のいいものを見つけるのが楽しみだったようです。

 

お店の人との会話も楽しく、買い物を兼ねた散歩も楽しかったそうです。

 

彼女の家には息子さん夫婦がよく遊びに来るので、お昼ご飯を作ってみんなで

 

食べるのはとても幸せな時間だったそうです。

 

彼女にとって食事とは、ただ美味しいものを食べるだけではなく、

 

何を作るか考えたり料理をするための準備や食べた後の後片付けなど

 

すべてのことのようでした。

 

大変だったようですが、それでも自分が作った食事は美味しかったそうです。

 

しかし年には勝てません、彼女は不本意ながらしかたなく老人ホームに

 

入居することになりました。

 

施設では心のこもった食事を出されますが、体が不自由になり施設に入って初めて

 

自分のことが自分でできることのありがたさに気付いたようです。

 

希望を失った彼女は、人生をより良く生きるための努力の積み重ねを

 

放棄してしまい、もう自分では何もできないと諦め、人に頼りっきりに

 

なってしまいました。

 

この施設に入ってから彼女は、何の刺激もなくダラダラと過ごし、

 

ご飯を食べてもあまり美味しく感じないようでした。

 

利用者さんの中には、自分の残された能力を信じて毎日努力を積み重ね、

 

生き生きと暮らしている人もたくさんいました。

 

先ほど彼女の言っていた何か味が物足りないのは、彼女の人生を味わい深くする

 

ひとつまみの塩加減だと僕は思いました。

 

人生も食事も、その塩加減で大きく変わるような気がします。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます