お肉屋さんのバレンタインデー

 

おはようございます。

 

明日は年に一度のバレンタインデーですね。

 

僕はバレンタインデーの歴史はよく知りませんが、切ない乙女の愛を

 

遠慮なく告白できる日なら、とてもステキですね。

 

今では、自分へのご褒美として、チョコやスイーツを買う人もいるようですね。

 

僕のお店にも1か月くらい前からバレンタインコーナーが設置され、甘い雰囲気と

 

派手な演出でお客さんの目を引いています。

 

その周りでは女子学生や社会人の若い女性、赤ん坊を抱いたお母さん、

 

中年の女性などが楽しそうにチョコを選んでいます。

 

誰にあげるのでしょうか、僕はその優しそうな顔を見ると、とても幸せな

 

気持ちになります。

 

僕はそれを見る度に、人の心の中にこんなに愛がたくさんあるのかと驚きます。

 

こんな日が毎日だったら、世の中、どんなに平和なんでしょう。

 

ここまで書いて、夜遅くなった僕は、いつの間にか寝落ちして夢を見ました。

 

夢の中のそこは、たくさんの肉用牛が飼育されている、畜産農家でした。

 

その中に、とても仲のいい牛の親子がいました。

 

母親は子牛が将来、肉用牛として、人間に食べられる運命だと知っていました。

 

母親は夜空を見上げて、「あなたはあの星のように、私の心も届かないほど

 

遠く離れてしまうのね、子供に先立たれる親の気持ちは地獄のように辛いわ。

 

あなたが牛ではなく犬や猫やウサギに生まれたなら、人間にペットとして

 

可愛がられるのにどうして牛の子に生まれてきたの」と不憫に思いました。

 

母親は、子牛がたくさん食べて大きくなるにつれて、悲しみもだんだん

 

大きくなりました。

 

とうとう親子はお別れの日がきました。

 

母親は息子に、「ごめんなさい、私はあなたに何もしてあげられなかった。

 

食べられるためにあなたを育て上げた私の悲しい気持ちをわかってね。

 

あなたは人に食べられるために生まれてきたの、美味しく食べてもらう

 

ことがあなたの幸せなのよ」と言って最後のお別れの涙を流しました。

 

しばらくして、屠殺されて冷たい肉の塊となった子牛を見て、母親は絶叫しました。

 

「これが本当にさっきまで元気だった私の息子なの?」と変わり果てた姿を見て

 

信じられませんでした。

 

「できるなら私が代りになりたかった」と母親は悔しくて悲しくていつまでも

 

涙が溢れて止まりません。

 

気を取り直した母親は、「あなたはお肉屋さんでしょう、私の大切な息子の

 

心をあげるわ、あなたのお店で息子の命を愛に変えてほしいの、お願い」と

 

解体された臓器の中から愛する子牛の心臓を取り出し、僕に預けました。

 

僕のお店では牛の心臓をハツという名前で焼き肉用として販売しています。

 

ハツは弾力があって愛を噛みしめるように食べるのが美味しいお肉です。

 

僕は胸に両手を当て、「大切な子牛の心を、バレンタインデーに義理ではなく

 

必ず本命として、愛に変えてお客さんの幸せのために届けます」と母親に

 

固く約束しました。

 

食卓に幸せを届けるのが僕の仕事です。

 

ここで目が覚めました、気がつくと僕の枕は涙でびっしょりでした。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。