仕事の遅い介護職員

 

おはようございます。

 

僕が介護の仕事を始めて3年目のことでした。

 

毎年春には新人が何人か入ってきます。

 

その中には、介護の専門学校を卒業して介護福祉士の資格を取ったばかりの

 

女性社員がいました。

 

若い彼女は専門知識を生かして立派な介護ができることを夢見ていました。

 

「お年寄りに幸せを」と言うのが彼女の口癖でした。

 

彼女は学校で習ったことを忠実に守り、教科書通りにお年寄りの介護をしました。

 

また介護の専門学校だけではなく、老人ホームで実習生として学んだことも

 

参考にして、理論と技術の両面からお年寄りの介護をしました。

 

彼女は少し業務に慣れれば完璧な介護ができると自信に溢れていました。

 

なぜならば彼女は、介護の専門学校ではトップの成績で卒業したからです。

 

彼女の介護は無駄がなく、同じ時期に入った人とは比べ物にならないほど

 

要領よく仕事をこなしました。

 

それから半年後のことです。

 

事情があって前の老人ホームを辞めた、介護歴2年の女性が中途入社で

 

入ってきました。

 

この女性は特に専門学校に行っているわけでもなく、介護福祉士の資格も

 

持ってはいませんでした。

 

先ほどの女性社員と年齢は同じくらいで、体格もやせ型でよく似ていました。

 

この女性は先ほどの女性社員と違って、介護の知識があまりなく、

 

前の老人ホームで先輩の介護を見よう見まねで覚えたようでした。

 

なので彼女の介護の仕事のスピードは先ほどの女性社員より劣っていました。

 

先輩社員は、彼女の仕事ぶりを見て、先ほどの女性社員より介護職の経験が

 

長いのに仕事が遅いとよく叱っていました。

 

でも彼女はそんなことは一切気にしないで自分流の介護を続けました。

 

そのうちわかってきたことは、彼女がお世話をするときのお年寄りの

 

表情が明るくなり、笑顔が戻ってきたことでした。

 

先ほどの女性社員が介護をしているときはお年寄りは無表情のままでした。

 

僕は気になって、「どうしてあなたがお年寄りの介護をするとみんなが

 

笑顔になるのですか」と聞いてみました。

 

すると彼女は、「私は介護の知識も技術も他の人と比べて劣っています。

 

なので私は、ここにいるお年寄りを自分のお父さん、お母さんと思って

 

優しく愛情をもって、時間をかけてお世話をすることしかできないんです」と

 

真剣な顔で僕に話しました。

 

それから僕が彼女の仕事ぶりを見ていると、彼女は介護をしながらいつも

 

優しく、彼女の両親のようにお年寄りの話を聞いてあげて頷いていました。

 

僕はそれを見て、彼女は仕事は遅くても、お年寄りの気持ちを理解して

 

心が強く繋がっているんだと思いました。

 

介護の仕事はこれだと僕は思いました。

 

僕は改めて介護の基本は愛だと彼女に教えられました。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。