悲しきおばあさんの日記

 

おはようございます。

 

今回は僕が老人ホームで介護の仕事をしていた時のことです。

 

介護の仕事を始めて間もない頃、先輩と一緒に仕事をしながら色々と

 

教えてもらいました。

 

寡黙なおばあさんのいるお部屋で布団のシーツ交換のときでした。

 

先輩が、「この人はわがままを言わないいい人だからお世話をするのが

 

楽なんだよ」と言って車いすに座っているおばあさんを褒めました。

 

僕は彼女を見て、無表情で元気がなく、何かに怯えているような気がしました。

 

そんな彼女ですが、それから1週間後に体調が急変し、亡くなりました。

 

僕は彼女のお部屋の後片付けのために荷物を整理しました。

 

すると日記のようなものが見つかりました。

 

随分前のことで、日記の内容ははっきりとは覚えていませんが、とても

 

衝撃がありました。

 

次のようなことが書いてあったと記憶しています。

 

「みなさん、私はここに来るまでは自分の思うがままに自由に生きてきました。

 

私はここに来ても最初は、同じように自由に振舞いました。

 

でもみなさんは、そんな私をわがままだと言って嫌いました。

 

ここで自由に生きたい私は、聞き分けのない悪い人のように扱われました。

 

思うように動けない私が、人のお世話になることはとてもつらいことです。

 

そのとき私は心に深い傷ができました。

 

私はここで生活するには黙って自分を殺すことだと知りました。

 

それ以来私は、じっと自分の気持ちを殺し我慢してきました。

 

あなたは私のことをおとなしくていい人だと思っているでしょう。

 

もしかしてあなたは、生まれた時から私はおばあさんだと思っているんじゃない。

 

私だってあなたたちのように若い頃は、すてきな男の子の前では心がときめき

 

失恋した時は悲しくて涙が止まらなかったわ。

 

亡くなった主人とは新婚当時、毎日毎日楽しくて仕方がなかったのよ。

 

ふたりで行った旅行は今でも楽しくて忘れられないのよ。

 

春の桜に心は躍り、秋の紅葉にはしんみりしたわ。

 

体は衰えても心は今でも生きているのよ。

 

お願い、わかって、こんな年老いた私でも、あなたたちと同じ人間なのよ」

 

そんな日記を読んで僕は悲しくなり涙が出ました。

 

もし僕が彼女の生きている間にこの日記を読むことができれば、

 

彼女の手をしっかりと握って、僕もあなたの気持ちがよくわかりますと

 

伝えたかったのに残念です。

 

それ以来僕は、お年寄りの気持ちに寄り添うように介護の仕事を続けました。