孤独なお客さん

こんばんは。

 

ある時、僕がお店でお肉の値引きをしていた時のことです。

 

お客さんが、「サンドイッチに挟むハムはどれがいいの」と僕に聞きました。

 

そのお客さんは70歳を越えた男性でした。

 

僕は、「ロースハムなんかどうですか」と勧めました。

 

売場にはロースハムが何種類もあって、彼はどれがいいのか迷っていました。

 

僕は彼にどれくらい作るのかと聞くと、「自分は一人暮らしだから

 

少量でいい」と言って、一番量の少ないのを手に取りました。

 

僕は、彼が時々このお店に来て買い物をしているのを見たことがあります。

 

彼は他の店員によく話しかけていましたが、みんな忙しくてあまり相手に

 

されなかったようで、彼は存在感がなく寂しそうに思いました。

 

そんな彼をよく見ているので僕は彼に、「この近くにお住まいですか」と

 

聞いてしまったのが間違いでした。

 

自分のことを聞いてくれる人が周りに誰もいなかったのでしょうか、

 

彼は堰を切ったように、住んでいる場所だけではなく、今の生活のことや

 

彼自身のことなどべらべら話し始めました。

 

彼の存在価値を認められたように思ったのか話が止まりません。

 

その時彼が楽しそうに話すので、僕は彼の話に、10分以上付き合いました。

 

彼は久しぶりに話し相手ができたのか、嬉しそうに、僕が勧めたロースハムを

 

買って帰りました。

 

それから数日後、僕がいつものようにお肉の値引きをしていると、

 

「この前買ったハムは美味しかったよ」と彼が僕の目の前に現れました。

 

そして彼は、仕事をしている僕に、ずっと一緒について来て話かけました。

 

彼はひとりで家にいると孤独を感じて、人がたくさんいる場所に行って

 

寂しさを紛らわしているようです。

 

でも、家に帰るとますます孤独感を感じてしまうそうです。

 

彼はひとりでいるのが寂しいのでしょう、それから何度も、彼は仕事を

 

している僕に会いに来て、彼の心の内を語りました。

 

時間があれば彼の話を十分聞いてあげられるのですが、仕事中に

 

何度も来られるとさすがに僕は迷惑に感じました。

 

でも、孤独に悩む彼の気持ちは痛いほどわかりました。

 

そこで僕は彼に、「孤独とは人のいない山奥ではなく、大勢の人の中にいて

 

存在を認められない時です、孤独感を埋めるために多くの人に接するのは

 

かえって孤独感を煽りますよ」と忠告しました。

 

彼は痛いところを突かれたと感じたのでしょうか、それ以来僕に会いに

 

来ませんでした。

 

僕は孤独な彼に、もっと強く生きてほしかったのでそう言ったのですが、

 

言い過ぎたのかもしれません。

 

孤独って、どうにもならないほど、辛くてやりきれないものなのかもしれませんね。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。