お客さんとの約束

 

おはようございます。

 

スーパーの精肉部門で働く僕のお話です。

 

以前店長がお休みの時、僕が閉店までお店に残ることがありました。

 

僕はいつも早朝出勤なので、閉店まで残って仕事をすることはほとんど

 

ありませんでした。

 

でもその日は社員が誰もいなくて、僕が閉店まで残ることになりました。

 

僕のほかには数人の学生アルバイトとレジ部員が残っているだけでした。

 

いつもの勤務時間と違って、夜のお店の雰囲気はまったく違いました。

 

太陽の明るさに慣れている僕は、夜空に輝く神秘的な星を見ながら、

 

たまには夜働くのもいいなと思いました。

 

客層も違っています、夕方まではお年寄りや主婦、学生のお客さんが

 

多いのですが、夜は仕事帰りの男性のお客さんが多いような気がしました。

 

僕の主な仕事は、お客さん対応と総菜部門の値引き作業でした。

 

前日店長に、お客さんの対応を親切にするのと、総菜の値引きは6時に2割引き、

 

7時に3割引き、そして閉店1時間前の9時には半額にするようにと言われていました。

 

惣菜の値引きが初めてだった僕は、店長に言われたように、6時から2割引きのシールを

 

商品に貼り始めました。

 

すると僕の周りには、安くなった商品を買い求めるために、多くのお客さんが

 

集まりました。

 

この物価高で、少しでも節約しようとするお客さんの気持ちが痛いほどわかります。

 

お寿司のパックに値引きシールを貼っていると、男性のお客さんが僕に

 

近づいてきて「このお寿司は何時になったら半額になるの」と聞きました。

 

そのお客さんはお店の近くに住んでいて、半額になったら買いに来るそうです。

 

僕は店長に言われた通り「9時になったら半額にします」と答えてしまいました。

 

するとそのお客さんは「それなら半額になる頃また買いに来るね、約束だよ」と

 

言って帰りました。

 

ところがその日はお寿司がよく売れて、お客さんが欲しかったお寿司は

 

9時前には1パックしか残っていませんでした。

 

このままでは売り切れてしまうと思った僕は、そのお寿司を総菜部門の

 

冷蔵庫に保管して先ほどのお客さんを待ちました。

 

もし、その時間にお客さんが来店してそのお寿司がなかったらと思うと、

 

申し訳なくて僕の心は耐えられません。

 

約束を破ったことになるからです。

 

僕は店長に言われたように、お客さんには親切に対応したつもりです。

 

しかし9時を過ぎてもそのお客さんはお店に来ませんでした。

 

結局、お客さんが来ないので閉店10分前に半額にしてそのお寿司を売場に

 

出しましたが売れ残り、廃棄処分となってしまいました。

 

翌日店長にそのことを話すと「お前は馬鹿正直だな、お客さんに

 

手の内を明かしてはいけないんだよ」と僕に反省を促しました。

 

僕はどうしても仕事に人情味が入ってしまうんです。

 

でも僕は、お客さんとの約束を守ったことに後悔はありません。

 

それ以来僕は、半額になる時間を、お客さんに教えることはありませんでした。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。